ここ最近弟子の皆がクラブMOIマッチングの普及啓蒙に尽力してくれている事でいろいろな方からお問合せを受ける事が多くなってきました。

こちらに聞いてくる人はブログやWebSiteを見るより聞いた方が早いし、お金もかからないから聞いちゃえ!!と聞いてくるので、ここに書いてもクラブMOIマッチング自体の問い合わせが減るとは思いませんが、ちゃんと調べる方々のためにクラブMOIマッチングに関して書こうと思います。

1.クラブMOIとは?

クラブMOIとはゴルフクラブ全体のMOI(Moment of Inertia=慣性モーメント)の事を指します。
ゴルファーにとってMOIはヘッドの寛容性(当たり負けのしにくさ)を表す指標として古くは5900g-cm²とか最近では10K=10,000g-cm²などの数値は聞き覚えがあると思います。
10KのMOIはヘッド単体で計測した場合ですが、一方のクラブMOIはヘッドだけで無く、シャフト・グリップを含めたクラブ全体の慣性モーメントです。同じ計測単位でも良いのですが、桁が大きくなりますので、g-cm²では無くkg-cm²の単位で表すこと(例:2750kg-cm²)を私達JCMO(日本クラブMOIマッチング機構)では採用しています。

2.クラブMOIは高くても低くてもNG

ヘッド単体の10KとかのMOIがミスヒットした時の寛容性(優しさ)を表すので、クラブMOIも大きい程良いと勘違いされる方もいらっしゃるのですが、クラブMOIに関しては高ければ良いと言う訳ではありません。
先ずは慣性モーメントがどういうモノかをご説明しましょう。

慣性モーメントはモノを回転させる際にどれだけのチカラが必要かを数値で表したもので、ヘッドの10Kの場合はフェースの上下と左右の慣性モーメントを合わせて10000(10K)g-cm²としています。
上下左右を合わせた慣性モーメントですから、ボールを打った際に上下左右のどの部分で当たっても10Kまでなら当たり負けしない(ヘッドが開いたり閉じたりの回転をしない)という事を表し、数値が高くなればなるほどミスヒット時の当たり負けしにくくなると言うことになります。
ミスヒットしてもヘッドが回転しにくく、抗ってくれる=優しさに繋がると言うことです(※多少暴論と言うか正確ではありませんが、説明のためですので、ご了承ください)。

一方でクラブMOIのほうの回転は、ミスヒットしてクラブが回ると言う回転では無く、スイングが円運動で回転する事を意味します。
スイングする時にクラブが抗ってくるチカラ=振るために必要なチカラのことです。
クラブを振るときに感じる抵抗と言ってもいいのですね。
クラブを振るときに必要なチカラが数値として示されるクラブMOIですから、クラブMOI値が高ければ良いとはなりません。

逆にクラブMOI値が低ければ良いのかと言うと、それもダメです。
ヘッドの付いていないシャフトだけを思いっきり振るとヘッド?スピードは速くなりますが、マン振りし続けるとかなりの確率で身体を壊します。
ヘッドという200g程度以上あるモノが無いと、クラブMOI値はもの凄く低くなるのですが、低すぎても決して良いと言う訳ではありません。
つまり、クラブMOI値は高すぎても低すぎてもいけないのですが、その部分がクラブMOIマッチングの真髄であり、難しいところなんです。

3.クラブMOIの高低でどのような影響が出てくるか?

適正なクラブMOI値でないとどのような影響が出てくるかと言う点ですが、先ずクラブMOIの高低はゴルファーそれぞれが感じる振り心地からして変わって来ます。
その人にとってクラブMOI値が高ければ「重く振りにくい」と感じますし、低ければ軽く振りやすいと感じますが、シャフトだけを振るのが軽く振りやすいとはならないように高すぎてもダメですし、低すぎてもダメなのです。

クラブMOIの高低は実際の球筋にも多大な影響が出てきます。

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この図はテストに出ます(クラブMOIマッチングセミナーの卒業テストですが・・・)

クラブMOIが高すぎる=振りにくい=振るために大きな力が必要と言うことですが、その力を出し切れなかった場合、クラブは振り遅れますね。
結果Cの位置で当たってボールはプッシュスライス気味に飛んでいきます。

逆にクラブMOIが低すぎる=振りやすいので振りすぎると言うことになりますので、ボールコンタクトはAの位置で当たって引っかけることとなります。

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こちらは正面から見た図

正面から見るとクラブMOIが高い=振り遅れると言うことになりますので、1の位置でボールコンタクトを迎え、クラブMOIが低い=振りすぎる事から3の位置で当たる事になります。
1の位置で当たった場合、ロフトは立った状態でボールヒットしますから、球は上がりません。
逆に3の位置で当たった場合はロフトが寝た状態でボールヒットするので球は上がりすぎる事になります。

クラブMOIがその人にとって適正なクラブMOI値だった場合、振り遅れる事も振りすぎる事も無いので、ボールコンタクトの際にフェース面は真っ直ぐ、適正なリアルロフトで当たる事となります。
B-2の位置で当たるので球が当たる効率としても一番良く、真っ直ぐ遠くへ飛ぶ事になります。

4.クラブMOI=スイングバランスでは分からない

詳細は次回以降に解説しますが、クラブMOIはスイングバランスの数値を見ただけでは分かりません。
例えばC0.0でも重く長いクラブであればクラブMOIは高くなりますし、D5.0でも軽く短いクラブであればクラブMOIは低くなります。
仮に普通に組まれたクラブで、スイングバランスがドライバーからウェッジまで全てD1.0で組まれていた場合、ドライバーのクラブMOIは高く、ウェッジやショートアイアンのクラブMOIは低くなります。
スイングバランスで組まれたクラブの傾向としてはクラブが長くなるにつれてクラブMOIは高くなる傾向です。

そこで3.の図を再度見てください。
ドライバーやロングアイアンではクラブMOIが高いため、振り遅れてボールヒットする=C-1の位置で当たるので、球は右に行き、球は上がらない。

ショートアイアンやウェッジではクラブMOIが低く振りすぎてボールヒットする=A-3の位置でボールヒットする。
結果、球は上がるけれど、左に引っかける。
と言うことになります。

B-2の位置で当たるようにするのがクラブMOIマッチングです。
やり方は至極単純。
B-2の位置で当たるクラブ(いわゆる得意番手)のクラブMOI値を計測し、その番手に他の番手のクラブMOI値を合わせていく(13本全てのクラブを同じMOI値にする訳ではありません)と言うことです。
慣性モーメント自体が重さと長さ(直径)に比例して高低していきますので、MOIマッチングの調整方法は基本的に重さと長さを調整していくこととなります。
ただ重さで言うと最終的には0.01g単位まで、長さで言うと0.1mm単位まで追い込んで調整しますし、どこで0.05g軽くするかを決めるには膨大なノウハウや技術・知識が必要です。

5.スライスしないはずのドライバー、ライ角が合っていても引っかけるショートアイアン

新製品のドライバーのキャッチフレーズやゴルフ雑誌の特集ではずっと「捕まるドライバー!!」とか「ショートアイアンで引っかけないために」と行った事が言われています。
逆に言うとこの数十年、ドライバーはスライスするし、ショートアイアンでは引っかけ続けていると言うことでもあります。
大資本のメーカーが毎年スライスしないドライバーを作っているにもかかわらず、実際に打ってみると多くの人がドライバーでのスライスに悩み続けていると言うことです。

なぜならばクラブメーカーはクラブMOIマッチングのことを知りません。
試しにゴルフ量販店に行って、「クラブMOIって何ですか?」と聞くと「今はTaylorMadeやPINGが10Kのクラブ出してます。以前だとナイキの四角いドライバーがありましたね」とか答えると思います(笑)
いくらクラブMOIマッチング理論が物理の原理原則に基づいた理論であっても、知らなければ分かりませんし、私達JCMO(日本クラブMOIマッチング機構)としてもメーカーを巻き込んだ形でもっともっとクラブMOIマッチングの理論を広めていかないといけないですね。

ただ、だからこそ先見の明があってスイングバランスに(悪い意味で)慣れきっていないトーナメントプロなどはクラブMOIマッチングで差をつけるチャンスですし、アマチュアでも自身のゴルフをシンプルにするために必要なクラブチューニングがクラブMOIマッチングと言えるのでは無いでしょうか?

次回は男子シード選手の平本世中プロに渡したMOIマッチングのトリセツ(実践編)をお送りします。
実際のラウンドでの対処方法ですので、これで平本世中プロも今季は優勝してもらいたいと思っています!!